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[ 名言 ]
私は(ねこに)鰯(いわし)を一尾なげてやった。
ねこは逃げ腰をつかいながらもたべたのだ。
私の胸は浪(なみ)うった。
わが恋は容(い)れられたり。

[ 出典 ]
太宰治[だざい・おさむ]
(明治〜昭和の作家、1909〜1948)
作品『葉』

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太宰治の名言
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〈全文〉
空の蒼(あお)く晴れた日ならば、ねこはどこからかやって来て、庭の山茶花(さざんか)のしたで居眠りしている。
洋画をかいている友人は、ペルシャでないか、と私に聞いた。
私は、すてねこだろう、と答えて置いた。
ねこは誰にもなつかなかった。
ある日、私が朝食の鰯(いわし))を焼いていたら、庭のねこがものうげに泣いた。
私も縁側へでて、にゃあ、と言った。
ねこは起きあがり、静かに私のほうへ歩いて来た。
私は鰯を一尾なげてやった。
ねこは逃げ腰をつかいながらもたべたのだ。
私の胸は浪(なみ)うった。
わが恋は容(い)れられたり。
ねこの白い毛を撫でたく思い、庭へおりた。
脊中の毛にふれるや、ねこは、私の小指の腹を骨までかりりと噛(か)み裂いた。


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