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[ 名言 ]
放心について──
森羅万象の美に切りまくられ踏みつけられ、舌を焼いたり、胸を焦がしたり、男ひとり、よろめきつつも、或(あ)る夜ふと、かすかにひかる一条の路を見つけた!
と思い込んで、はね起きる。
走る。
ひた走りに走る。
一瞬間のできごとである。

[ 出典 ]
太宰治[だざい・おさむ]
(明治〜昭和の作家、1909〜1948)
『もの思う葦』

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〈全文〉
森羅万象の美に切りまくられ踏みつけられ、舌を焼いたり、胸を焦がしたり、男ひとり、よろめきつつも、或(あ)る夜ふと、かすかにひかる一条の路を見つけた!
と思い込んで、はね起きる。
走る。
ひた走りに走る。
一瞬間のできごとである。
私はこの瞬間を、放心の美と呼称しよう。
断じて、ダス・デモニッシュのせいではない。
人のちからの極致である。
(中略)附言する。
かかる全き放心の後に来る、もの凄(すさま)じきアンニュイを君知るや否や。


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