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[ 名言 ]
私は、幸福を信じない。
光栄をさえ信じない。
ほんとうに、私は、なんにも欲しくない。
私には、いまは何も、必要なものはないのだ。

[ 出典 ]
太宰治[だざい・おさむ]
(明治〜昭和の作家、1909〜1948)
『春の盗賊』

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〈全文〉
人に頭をさげて、金銭のことをたのむということは、これは、実に実に、恐ろしいことなのだ。
戦慄(せんりつ)の悲惨である。
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私は、いまこそ、それを知った。
作品で、大金を得るということは、なかなか至難のことであるから、私は、ほとんど、それを期待しない。
あれば、あるだけの生活をするつもりだし、無ければ無いで、あわてないように、ふだんから、けちにけちに暮しているのだ。
そうして居れば、なんにも欲しいものがない。
あてにしていた夢が、かたっぱしから全部はずれて、大穴あけて、あの悽惨(せいさん)、焦躁(しょうそう)、私はそれを知っている。
その地獄の中でだけ、この十年間を生きて来た。
もう、いやだ。

私は、幸福を信じない。
光栄をさえ信じない。
ほんとうに、私は、なんにも欲しくない。
私には、いまは何も、必要なものはないのだ。
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こうして苦しみながら書いて、転々して、そうして二、三の真実、愛しているものたちを、ほのかに喜ばせ、お役に立つことができたら、私は、それで満足しなければならぬ。
空中楼閣は、もう、いやだ。


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